仏間をめぐるトントンサラサラ
どんな伝承か
父の家は勿来の関の麓の大津港にあった。著者が小学校一年のとき、中気の祖母がいよいよいけないというので、一家そろってこの大きな古い家へ行った。ある日、祖父が孫たちを呼び、この家にはできてからずっと面白いことがある、今晩は見せてやると言って、祖母の寝ている十五畳の仏間に集めた。十二時を過ぎた頃、仏壇の裏の便所の方からかすかなトントンという音が聞こえ、サラサラという衣ずれの音とともに壁の中を左回りに動き出した。音は部屋の角で直角に曲がり、閉まったままの障子を通って廊下へ出て仏間を回り、五分とたたぬうちに仏壇へ入って消えた。翌晩、祖父は日本刀で音に斬りつけたが、音は何事もなく通り過ぎて行った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年))
『山とお化けと自然界』は、西丸震哉が旧著三冊と雑誌の一篇「ワシは安禄山」を編み直し、一九九〇年に文庫版あとがきを付けた随筆集である。「自然界はもちつもたれつ」「酒」「山」「兄との交信」の四部に、チョウや小動物、山や湿原の探検、酒と温泉の話とともに、横尾谷の岩小屋の幽霊、釜石の幽霊、木曾御岳の人魂、呪い殺しの実験、雨やみの術など著者自身の怪異体験をつづる。あとがきに『未知への足入れ』『山だ原始人だ幽霊だ』『山の動物誌』を元にしたと記す。