網も飯盒もすり抜ける御岳の人魂
どんな伝承か
木曾御岳の賽ノ河原で人魂を見ようと泊まり込んだ著者は、夜十一時過ぎ、チョウ採りの網を手にテントを出た。積み石の間を飛び回るこぶし大の淡い人魂を網に入れたと思うと、網の底から平然と抜けていった。飯盒の底を正面に構えても素通りし、素手で打つと手応えはないのにはね返った。ぶつかってくるものもはね返されるので、生き物の体は通れないらしかった。テントの布からは泡のように湧き出しては消えた。正体は有機物でも光や電気でもなさそうで、分からずじまいだったという。
原典より
驚いたことにやつは飯盒の底を平気で抜けて行った。—— 山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年))
『山とお化けと自然界』は、西丸震哉が旧著三冊と雑誌の一篇「ワシは安禄山」を編み直し、一九九〇年に文庫版あとがきを付けた随筆集である。「自然界はもちつもたれつ」「酒」「山」「兄との交信」の四部に、チョウや小動物、山や湿原の探検、酒と温泉の話とともに、横尾谷の岩小屋の幽霊、釜石の幽霊、木曾御岳の人魂、呪い殺しの実験、雨やみの術など著者自身の怪異体験をつづる。あとがきに『未知への足入れ』『山だ原始人だ幽霊だ』『山の動物誌』を元にしたと記す。