太鼓坂の狸穴と狸を祀る祠
どんな伝承か
板野郡御所村宮川内の谷あいに、狸穴と呼ばれる口の差し渡し二尺ほどの穴があり、その少し上の山腹には、強く踏むと太鼓のように鳴る太鼓坂がある。昔狸穴には狸の一族が棲み、朧月や小雨の夜に山麓から山上へ狸火の行列をした。ところが村人の一人が狸を殺すと行列は絶え、夜更けに太鼓の音が響くようになり、鳴るたびに村に災難が起きた。村人は崖の上に回る台を仕掛けて狸を谷底へ落とし、何匹も死なせた。太鼓は止んだが村は衰え、狸の亡霊が人々に憑いたので、悔いた村人は狸穴のそばに狸塚を築き祠を建てて祀った。すると災いは収まり、祠は今も信仰されている。谷の赤褐色の岩は狸の血の跡だという。
原典より
板野郡御所村の宮川内の谷合に、狸穴といつて、口徑二尺ばかりの穴がある。—— 阿波の狸の話(笠井) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の狸の話(笠井)
『阿波の狸の話』は、脇町の笠井という著者が、阿波国の各地に伝わる狸の話を集めて書いた本である。狸同士の化かし合い、狸使い、狸憑き、狸医者、狸を祀る祠などを題ごとに分け、郡村名や人名を挙げて、明治・大正の狸憑きの実話やお六つ大明神の信仰の様子も記す。後半に余材追録と、著者が萬福寺で狸に憑かれる人や住職と問答した記録を置き、巻末の「阿波名狸録」で名のある狸を徳島市と各郡の部に分けて並べる。