山王神社の怪物と幸邦の遺言
どんな伝承か
永禄のころ、西別埜の山王神社に夜ごと大きな化け物が出るといううわさが立ち、夕方には人通りが絶えた。剛勇で知られた真田幸邦は退治しようと神社で待ち、七日目の夜、目を覚ますと社殿の入口に子牛ほどの犬のような怪物が目を光らせていた。斬りつけてもかわされ、夜明けの一番鶏とともに怪物は消えた。疲れ果てた幸邦は寝込み、兄の幸勝に、死んでも魂は残って必ず退治するから街道に向けて刀を帯びたまま葬ってくれと遺言して死んだ。以後怪物は出なくなり、亀の背に載った墓が残るという。
原典より
「スワ?」と身構えて、じっとヤミを凝視すると、社殿の入口に、小牛ほどもある犬が、らんらんと目をいからし、耳まで裂けた大きな口を開け、幸邦をにらんでいる。—— 阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年))
『阿波の怪談』は、横山春陽が昭和三十三年に編み、徳島新聞出版部から発行した郷土の怪談集である。徳島県の各地と土佐との国境の山中に伝わる山女郎、淵や池の主、カッパ、亡霊、火の玉、タヌキやキツネ、大ジャの話を、平安朝の言い伝えから藩政期、明治・大正、昭和の出来事まで、編者が古老に聞き、書物から拾って題ごとに並べる。おわりにでカッパやヘビの話の多い地域や海の話の少なさについて記す。