一番鶏に腹を切った六人の大工
どんな伝承か
阿波郡市場町切幡の切幡寺本堂は弘仁年間に弘法大師が一夜で建てたと伝え、天正年間に焼けて再建する際も一夜建立の条件がついた。腕自慢の讃岐の大工六人も応募して加わり、日暮れから作業を始めて夜半過ぎに本堂は完成した。一夜建立ではその夜のうちに郷里へ帰る習わしだったので、六人は市場から日開谷、大影を経て急いだが、国境の峠が目の先に見える相栗まで来たところで一番鶏が鳴いた。面目を失った六人は路上で枕を並べて腹を切った。以後、雨もよいの夜に六つの火の玉が飛び、うめき声が聞こえると噂され、村人が六基の石地蔵を建てると怪異はやんだ。
原典より
このことがあってのち、雨もよいの夜には、六つの火の玉がもつれ合って飛ぶのを見た者があるといったり、一番鶏の鳴くころに、恐ろしいうめき声を聞いた者があるなどとうわさが立った。—— 阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年))
『阿波の怪談』は、横山春陽が昭和三十三年に編み、徳島新聞出版部から発行した郷土の怪談集である。徳島県の各地と土佐との国境の山中に伝わる山女郎、淵や池の主、カッパ、亡霊、火の玉、タヌキやキツネ、大ジャの話を、平安朝の言い伝えから藩政期、明治・大正、昭和の出来事まで、編者が古老に聞き、書物から拾って題ごとに並べる。おわりにでカッパやヘビの話の多い地域や海の話の少なさについて記す。