壇の浦に沈んだ宝剣と八岐大蛇
どんな伝承か
『平家物語』の「先帝身投」では、平家の命運が尽きたと悟った二位殿が、三種の神器の曲玉を脇に抱え、草薙の剣を腰に差し、幼い安徳天皇を抱いて深い海の底へ沈んでゆく。続く「剣の巻」によれば、壇の浦で海人を集めて剣を探させたが、ついに見つからなかった。素戔嗚尊が八岐大蛇を退治してこの剣を得て以来、皇室には数々の奇瑞があったが、剣が海に沈んだのは、大蛇が天子に代わって剣を取り返しに来たのだと語られている。著者は、剣にまつわる蛇の怨霊を鎮める思いを読み取っている。
原典より
『平家物語』の「先帝身投の巻」では、二位殿が、もはや平家もこれまでと見きわめ、かねて確悟(かくご)どおり、…—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。