魚野川の橋に立つ雪中の幽霊
どんな伝承か
越後塩沢の鈴木牧之が著した『北越雪譜』には、雪国の怪異が多く収められている。神聖な御機屋で縮を織る娘は、忍んで来た男と会い、身を穢したまま機に向かって血を吐いて倒れた。中でも名高いのが「雪中の幽霊」である。関山村で魚野川に架かる橋は危うく、雪の頃には落ちて溺れる者が出た。念仏僧の源教が橋で鉦を打っていると、水中から青い火が燃え上がり、濡れた袖を合わせた三十ほどの女が現れた。体は透けて腰から下はおぼろである。女は古志郡の菊と名乗り、橋から落ちて死んだが黒髪が障りで成仏できないと泣いて剃髪を願い、約束の夜に髪を剃られて消えていった。
原典より
関山村の魚野川を渡る橋はきわめて危険であり、特に雪の頃は、あやまって川に落ち、溺死するものがあるという。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。