母を一口に食った柄巻屋の鬼子
どんな伝承か
『伊勢物語』の芥川の段をもじった『仁勢物語』第六段の話である。ある男の妻が、暗がりで塵紙を敷いた草の上にやっと子を産み落とした。後産が遅れて夜も更け、子は髪がひどく黒く、頭を激しく振り回していたが、男は鬼子とは知らずに妻を奥へ押し込め、子に産湯を使わせた。夜明け前、子はみるみる大きくなって母を一口に食べてしまう。母の叫びは鐘の音にかき消され、明るくなると母も子も消えていた。男は二条の戻橋のたもとの柄巻屋で、その夜は盗まれた柄糸や目貫を、堀川のあたりで大工に取り返してもらったばかりだった。
原典より
はや夜も明けぬるに、この子大きになりて、鬼子母を一口に食ひてけり。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。