一条桟敷屋をのぞいた馬頭の鬼
どんな伝承か
『宇治拾遺物語』の一話。一条の桟敷屋に泊まったある男が遊女と寝ていると、夜中に風雨が激しくなり、大路を諸行無常と吟じながら通り過ぎる者がいた。戸を細く開けてのぞくと、背丈が軒ほどもある馬の頭の鬼であった。恐ろしさに蔀を下ろして奥へ引っ込むと、鬼は格子を押し開けて顔を差し入れ、よくご覧になりましたな、と言う。男が太刀を抜き、入って来たら斬ろうと身構えて待つと、鬼は、よくよくご覧なされ、と言い残して去っていった。百鬼夜行であったろうかと物語は結んでいる。
原典より
なに者ならんと思て、戸をすこし押し明てみければ、長は軒とひとしくて、馬の頭なる鬼なりけり。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。