死に場所はみな若狭小浜の八百比丘尼
どんな伝承か
郷里の福井県で八百比丘尼の話を聞いて育ったという婦人から便りを受け、著者は『日本伝説大系』で伝説の広がりを調べた。伝説は南奥羽から北陸、中部、山陰まで百を超す土地に残っていたが、どの土地の話もほぼ例外なく、比丘尼は若狭の小浜で生涯を終えたと結んでいた。話の舞台は自分の土地に移しても死に場所だけは動かさないのは珍しく、著者は実際に八百年生きた人がいたのではないかと考え始める。伝説の骨組みはこうである。竜宮に招かれた男が台所をのぞくと、頭が人で腰から下が魚の人魚が料理されていた。男はその肉を少し盗んで帰り隠しておいたが、十五、六歳の娘が知らずに食べてしまう。娘は気を失い、持ち直してからは年を取らなくなって、親や知人が死に絶えても若いままだった。居づらくなった娘は小浜へ移り、八百年生き続けたという。
原典より
ところが十五、六歳の娘がそれと知らず食べてしまったのである。—— 黄昏綺譚(高橋克彦・幽霊・怪異体験・1996年(平成8年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
黄昏綺譚(高橋克彦・幽霊・怪異体験・1996年(平成8年))
『黄昏綺譚』は、高橋克彦が連載をまとめ、一九九六年七月付のあとがきを付したエッセイ集で、吉田光彦の挿絵と組んだ画文集である。著者が体験し見聞きした分身や生霊、寺での怪異、前世、UFOなどの不思議と、史料や神話に残る怪異、宮澤賢治をゴッホの生まれ変わりとみる考えを語る。「この世に幽霊はいる」「不思議な話が史料や神話に」「宮澤賢治はゴッホの生まれ変わり!!!」の三部に分かれ、巻末にあとがきと丸尾末広の解説「黄昏るペン」を収める。