列車から落ちた友の霊と弟
どんな伝承か
F君は仙台の自動車会社の面接に合格し、一刻も早く家族に報告したくて夜行寝台に飛び乗った。座席が混んでいたためデッキに立ち、喘息の発作が起きたのか新鮮な空気を吸おうと扉を開けたところを揺れに襲われ、列車から放り出されて線路脇のコンクリート製の里程標に顔面から激突して即死した。三年後、著者は東京で暮らし、弟は仙台の予備校に通っていた。東京の大学を受けに来た弟は骸骨のように痩せこけていたが、にこにこと「俺にはFが応援してくれてるんだから」と言い、夜中にカーテンを開けたらFの死んだ場所と手向けの花がすうっと目に入ってきたと語った。
原典より
F君の葬式に私はでなかったが、弟の話によると本当に可哀相な状況だったらしい。—— 黄昏綺譚(高橋克彦・幽霊・怪異体験・1996年(平成8年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
黄昏綺譚(高橋克彦・幽霊・怪異体験・1996年(平成8年))
『黄昏綺譚』は、高橋克彦が連載をまとめ、一九九六年七月付のあとがきを付したエッセイ集で、吉田光彦の挿絵と組んだ画文集である。著者が体験し見聞きした分身や生霊、寺での怪異、前世、UFOなどの不思議と、史料や神話に残る怪異、宮澤賢治をゴッホの生まれ変わりとみる考えを語る。「この世に幽霊はいる」「不思議な話が史料や神話に」「宮澤賢治はゴッホの生まれ変わり!!!」の三部に分かれ、巻末にあとがきと丸尾末広の解説「黄昏るペン」を収める。