三歳で覚えていた能代の家
どんな伝承か
著者には鮮明な記憶がある。母の傍らの座席に腰掛けてバスに乗り、真っ青に晴れた夏の午後、田舎道を進んだバスが川の浅瀬を選んで横断した。倒壊した小さな橋が右手に見え、石にタイヤが乗り上げるたびに車体が傾いだ。到着後は母に背負われて家に向かい、家の前には深い堰に白い板の小さな橋が架かり、玄関の格子扉の上には来客を伝える赤い鈴があった。後年その記憶を母に尋ねると、そこは両親が赴任していた秋田県の能代の住宅で、著者が三歳のときだと言い、覚えているはずがないと否定したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
黄昏綺譚(高橋克彦・幽霊・怪異体験・1996年(平成8年))
『黄昏綺譚』は、高橋克彦が連載をまとめ、一九九六年七月付のあとがきを付したエッセイ集で、吉田光彦の挿絵と組んだ画文集である。著者が体験し見聞きした分身や生霊、寺での怪異、前世、UFOなどの不思議と、史料や神話に残る怪異、宮澤賢治をゴッホの生まれ変わりとみる考えを語る。「この世に幽霊はいる」「不思議な話が史料や神話に」「宮澤賢治はゴッホの生まれ変わり!!!」の三部に分かれ、巻末にあとがきと丸尾末広の解説「黄昏るペン」を収める。