太郎坊で大天狗を名乗った機関士
どんな伝承か
米原駅機関庫の有志三十五名が御殿場口から富士に登り、山上に一泊して翌日は須走口へ下ることになった。午前十時頃、太郎坊まで来て休憩していると、強力が、この辺は昔から天狗の棲家で登山者を苦しめることがあったため、有志が古御嶽神社を建てて天狗を祭ったのだと説明した。一行が発つと間もなく、機関士の高橋等が突然歩みを止め、自分は富士浅間木花咲耶姫に仕える大天狗である、心に不浄ある者は残らず食い殺してやると叫び、金剛杖を振って暴れ出し、姿を消した。裾野一帯を大捜索した末、夕刻、大木の頂に坐っているのを見つけて取り押さえ、縛って御殿場まで運んだという。
原典より
一行中の機関士高橋等なる者が突然歩みを止め、「吾は富士浅間木花咲耶姫に長く仕えおる大天狗である、…—— 迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年))
『迷信の諸相・宗教の真相』は、井上円了が大正五年に刊行した『迷信と宗教』を、新しい題を付け現代の表記に改めて翻刻した本である。琉球・伊豆七島・壱岐対馬から北海道まで、著者が各地を巡回して見聞した犬神・人狐・河童・狐憑きなどの迷信と、怪火・天狗・幽霊・鬼門・卜筮・家相・禁厭など全国共通の迷信を挙げる。迷信の利害と原因を論じたのち宗教の真相を説き、余論に妖怪学の短編、附録に幽霊鬼神と霊魂不滅をめぐる論を収める。