生きながら船出した補陀落寺の渡海往生
どんな伝承か
昔、熊野には補陀落寺という寺があった。そこの僧たちは、泡のようにはかないこの世を捨て、黒潮が渦巻く海のずっと先に仏の浄土があると信じて、生きたまま小舟で沖へ漕ぎ出していったという。果てしなく連なる熊野の山並みが、観音の浄土の海へそのまま続いていると心に思い描いたのである。こうして命を海に託す往生は渡海往生と呼ばれ、美しくもあり恐ろしくもある往生の形として伝えられている。
原典より
この寺の僧たちは泡沫夢幻のこの世を離れ、遠く黒潮の逆巻く彼方に寂光浄土を信じて、生きながらに船をのりだしていった。—— 霊術家の饗宴(井村宏次・井村宏次・霊術研究・1983年(昭和58年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊術家の饗宴(井村宏次・井村宏次・霊術研究・1983年(昭和58年))
『霊術家の饗宴』は、井村宏次が一九八三年に著した近代日本の霊術家の歴史である。明治から昭和初めにかけて、気合術・催眠術・霊子術などで民衆の病や苦しみを救おうとした霊術家たちの運動を、当時の新聞記事や刊行物、関係者の家族への取材をもとにたどる。プロローグと六章、エピローグからなり、浜口熊嶽、桑原天然、福来友吉と千里眼事件、太霊道の田中守平を章ごとに取りあげ、霊術ブームと取締法による衰退までを描く。