八十丈の大氷柱と化した那智滝
どんな伝承か
昭和六年一月十一日、全国を襲った厳しい寒さのために、日本二十五勝の名瀑に数えられる紀州熊野の那智滝がたちまち凍りつき、長さ八十丈あまりの巨大な氷柱に変わった。滝壺も銀の盆のように凍り、ときおり岩壁から氷の塊がすさまじい音を立てて崩れ落ち、銀色の火花のように砕け散った。登山客はこの前代未聞の眺めに驚きながらも大喜びしたという。この日の寒さは数十年ぶりといわれ、東京は氷点下五度二分、九州から大阪あたりも氷点下三度から五度、本州中部は九度、北海道は十度から十五度まで下がり、国中が氷点下に包まれた。
原典より
十一日の全国的極寒のため、日本二十五勝の名瀑として知られている、紀州熊野の那智滝は、俄然凍って長さ八十余丈の大氷柱と化し、…—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。