那智で実川と名乗った九十二歳の老僧
どんな伝承か
山道に倒れた熊蔵がどれほど気を失っていたか、頭の上で小僧と呼ぶ声がした。老僧だった。疲れたかと問われ、熊蔵は泣くまいと思いながら涙をこぼした。二日後に那智に着くと、老僧は実川と名乗った。熊蔵は子ども心に六十代と思ったが、あとで九十二歳だと分かったという。白い総髪に鋭い眼光を持ち、何より顔色が不思議だった。一見血色がよいだけのようでいて光り方が異様で、皮膚の奥に光があり、気がみなぎっているようだったと伝えられる。
原典より
皮膚の奥に光があって、気色がみなぎっているのだ。—— 霊術家の饗宴(井村宏次・井村宏次・霊術研究・1983年(昭和58年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊術家の饗宴(井村宏次・井村宏次・霊術研究・1983年(昭和58年))
『霊術家の饗宴』は、井村宏次が一九八三年に著した近代日本の霊術家の歴史である。明治から昭和初めにかけて、気合術・催眠術・霊子術などで民衆の病や苦しみを救おうとした霊術家たちの運動を、当時の新聞記事や刊行物、関係者の家族への取材をもとにたどる。プロローグと六章、エピローグからなり、浜口熊嶽、桑原天然、福来友吉と千里眼事件、太霊道の田中守平を章ごとに取りあげ、霊術ブームと取締法による衰退までを描く。