鼻から酒を湧かす地蔵と隣の婆
どんな伝承か
或る所に一人暮しの爺があった。町へ用足しに行くので隣の婆に留守居を頼み、出かけるとき、奥の座敷は決して開けてはならぬと言い置いた。婆ははいはいと答えて炉にあたっていたが、爺が遠く行くと、見るなと言われた奥の座敷が見たくてたまらない。何か隠してあるに違いないと思い、抜き足差し足で行って戸を開けると、地蔵様がいて、その鼻の穴から何かがたちりたちりと湧いて下に置かれた瓶に溜まっていた。指を入れて掻き回すとよい酒の香りがし、舐めるとこらえきれず、瓶の酒をみな飲んでしまった。隠そうとして地蔵の鼻穴を柴で突き広げると、鼻は欠け落ちて酒は湧かなくなった。婆は水を汲んで瓶に入れ、知らぬ顔を通したという。
原典より
或所に一人暮しの爺様があって、今日は町さ用足しに行って来るべいと思つたが、留守居がないので、隣家の婆様にヤドキを頼んだ。—— 佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年))
『佐々木喜善全集 1』は、佐々木喜善の著作を遠野市立博物館が編集・発行し、昭和六十一年に刊行した全集の第一巻である。岩手県の遠野・江刺・紫波・岩手などで聞き集めたザシキワラシの話、昔話、伝説を、村の古老や知友からの聞き書きと手紙による報告をもとに収める。「奥州のザシキワラシの話」「江刺郡昔話」「紫波郡昔話」「東奥異聞」「老媼夜譚」「聴耳草紙」に小篇を加えて並べ、巻末に遠野市教育長の跋と奥付を置く。