元日の坂木宿を襲った山犬と犬塚
どんな伝承か
明治五年は雪のない暖かな正月だった。当時の坂木宿は、立町から大門町、新町にかけて旅籠や料理屋が並ぶにぎやかな宿場で、飯盛女もいた。元日の早朝、坂城神社へ参ろうとした立町の女たちの前を大きな山犬が駆け抜け、悲鳴に振り返ると京屋の女郎が噛みつかれていた。山犬は稲妻のように跳ね回って八人ほどを噛み殺し、十人ほどに傷を負わせた。大門町の橋の下で竹槍を構えても止められず、店から店へ飛びこんだ末に、上蔦屋の男の槍でようやく仕留められた。手当てに奔走した医者の埴鳳岳も噛まれて亡くなり、祟りを恐れた人々は心光寺の裏に犬塚を建てて供養したという。
原典より
こうなると犬はさらに猛り狂って、稲妻のような早さで飛びまわり、次から次えと危害を加え、八名位噛み殺し、一〇名位の人に傷を負わせ、手がつけられない。—— 坂城町誌 上巻(民俗編)――伝説(坂城町(編)・坂城町誌) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
坂城町誌 上巻(民俗編)――伝説(坂城町(編)・坂城町誌)
『坂城町誌 上巻(民俗編)――伝説』は、長野県坂城町の町誌上巻(自然編・民俗編)から、民俗編の数章を抜き出したものである。祟る所や神罰、ヒトダマ・狐火などの怪異、魔除け、植物の禁忌といった俗信を地区ごとの事例として番号を付けて並べ、続いて甘利さま、天田長者とほうず池、苅屋原の七不思議、貉和尚、夜泣き石など三十余りの伝説を収める。伝説の章は調査員の調査をもとに、以前の調査記録も二、三篇併せて載せる。