留守番する猫と女主人を守る狸
どんな伝承か
大正八年、著者は京都の五条警察署の少し上手、八坂神社に近い和本の古本屋を訪ねた。四十歳ほどの大柄な女主人には大きな猫が付き添って膝元に座ったが、著者はなぜか女主人の顔つきに狸の気配を感じた。女主人によれば、この家では猫が育たないのにこの猫だけは無事で、毎日半日ほど店を閉めて出かける間も、火鉢の横の布団に座ったきり外へ出ずに留守番をし、人の言葉もよく聞き分けるという。そのうえ家には別に「タヌ」、つまり狸がいて自分を守ってくれているのだと言い、その不思議な来歴を語ってくれた。
原典より
此女主人は四十歳ばかりの丸顔の大柄の婦人であつたが、一見陰氣臭く、而して奇怪にも其面貌に狸の氣祭が直覺された、但し狸に似た容貌では決して無いのであつた。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。