保険屋の靴を屋根に隠した狸
どんな伝承か
京都の狸屋敷に住んでいたころの、古本屋の女主人の話である。家では物が急に消えたり現れたり、雨傘が出たり隠れたりする怪が続いていた。ある日、大阪で生命保険の勧誘をしている下村という若い男が訪ねてきて、今どき狐や狸の迷信にとらわれてどうする、傘のことは年寄りの物忘れと偶然にすぎない、町なかに狸など住むはずがないと、女主人や母をさんざんにけなして帰ろうとした。ところが靴の片方がどこにもない。女ばかりの家で男物の下駄もなく困っていると、母が裏の便所の屋根の上に靴を見つけた。下村は竹竿で取り、狸をけなした仕返しだと頭をかいて帰ったという。
原典より
下村さんは此一件で閉口し、自分が狸を貶したので仇を打たれたと頭を掻いて行きました。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。