比熊山の天狗杉に触れた平太郎の物怪
どんな伝承か
『稲亭物怪録』から引かれた、備後国三次郡の稲生平太郎の家の怪事。平太郎は隣家の三ツ井権八の家で百物語をし、くじに当たって丑三つ時に比熊山へ登った。山上の千畳敷の片隅には三次若狭の古塚と、触れると祟るという天狗杉があったが、平太郎は杉を三度回り、草を結んで印として帰った。これがもとで数十日後の雨の夜から怪事が始まり、障子が開かず何者かに引かれ、屋根から光る目がのぞき、畳が散乱してひとりでに積み上がった。以後毎日怪異が続いて見物人が集まったが、平太郎は動じず、ついに山本五郎左衛門と名乗る魔王の類の大男が現れ、難の年は過ぎたと告げて供を連れ空へ去ったという。
原典より
ところが、平太郎は、そこに来て、その杉を三廻りまわり、草の葉を結び印として、立ち帰ったのである。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。