疱瘡神となった天女姫と岩鼻の観音
どんな伝承か
広島市の向洋には、お伽草子系の和泉式部説話を下敷きにした天女姫の物語が伝わる。平清盛と常盤御前のあいだに生まれた天女姫は、十四歳で痘瘡にかかって死んだ。清盛が厳島明神に埋葬の地を占わせると、東方七里に赤旗の立つところがあり、そこを墓とすれば姫は疱瘡神となって万民を疫病から守るという託宣を得た。行ってみれば旗が翻っていたので、金銀やお手玉、玩具を副えて葬り、せんだんの木を植えたという。帰京の際に清盛が沖から極楽山の観音を拝すると、観音は姫と力を合わせて衆生を救うと誓い、向洋の岩鼻に姿を現して真紅の鳩となり消えた。姫に仕えた乳母がとどまった場所は「乳母の寝床」と呼ばれ、作物が育たないと伝わる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
広島県史 民俗編――伝説の分布(広島県(編)・広島県史)
『広島県史 民俗編――伝説の分布』は、広島県が編んだ県史民俗編のうち、「休養と娯楽」の部に置かれた「伝説の分布」の章である。八幡信仰にかかわる聖蹟伝説や炭焼長者、厳島をめぐる石神やうつぼ船の伝説、和泉式部・虎御前・菖蒲前を語り歩いた巫女の伝説、人柱や竜蛇の伝説などを、『芸藩通志』『福山志料』などを引いて論じる。「八幡信仰の流れ」「厳島伝説の周辺」「巫女と伝説」「県北の伝説」の四節からなり、伝説の名を見出しに立てて所在地とともに述べる。