産の穢れをいとわぬ小摩と山の神
どんな伝承か
狩人の由来を説く『狩之巻』の系統のうち、椎葉型と呼ばれるものは他と趣を異にする。山の神母、一神の君が山中で産をしたのち産腹を暖めることができず難渋していたところへ、大摩・小摩という二人の猟師が行き逢った。大摩は血の穢れを恐れて立ち去ったが、小摩は穢れをいとわず、神の所望のままに割籠を供養した。一神の君は大いによろこび、その子孫に長く猟を栄えしめようと誓ったという。この説話は分布が広く、狩人の名は愛知県北設楽郡や栃木県安蘇郡の山村では大ナンジ・小ナンジ、岩手・秋田のマタギでは万治・磐司、磐次磐三郎などになっている。
原典より
第三の椎葉型は、これらといちじるしく趣きを異にし、山の神母、一神の君が産後産腹を暖めることができず難渋しているのに、大摩・小摩という二人の猟師が行き逢い、…—— 日本民俗学大系 第8巻――信仰と民俗(原田敏明・池上廣正・堀一郎ほか) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本民俗学大系 第8巻――信仰と民俗(原田敏明・池上廣正・堀一郎ほか)
『日本民俗学大系 第8巻――信仰と民俗』は、原田敏明・池上廣正・堀一郎ら十二人の執筆者による論文集である。民間に伝わる神と霊の観念、家や村の氏神、職業の神、祭りの日取りと組織、憑きものや妖怪を題材に、各地の調査報告や古記録に見える事例を引いて論じる。原田の総説に始まる十七編からなり、後半では修験道・庚申信仰・キリシタン・新興宗教と民間信仰とのかかわりを扱う。