木の葉に変わった祝儀と狐の輿入れ
どんな伝承か
今昔妖談集によれば、寛保五年五月十四日の夕暮れ、本所中の郷竹町の渡し守の小屋に、藤の丸に大の字の紋の羽織を着た侍が現れた。本所の大久保荒之助の家来と名乗り、主人の息女が今夜下谷へ輿入れするので渡し舟をすべてこちら岸に寄せておけと命じ、祝儀に金一両を渡した。夜九つごろ、万灯のような提灯を連ね大勢の侍に守られた姫の輿が現れ、船頭たちは恭しく向こう岸へ渡した。ところが一行は岸に上がるなり灯も人声もかき消え、翌日の小判は木の葉になっていた。葛西金町の半田稲荷から浅草の安左衛門稲荷への嫁入りだと噂されたが、化かされた渡し守が言いふらしただけだともいう。
原典より
扱は夕べの嫁姿は、人間には非ずして狐の仕業なりこ、何れも我を折りけり。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。