恋に狂い鬼と化した金峯山の聖人
どんな伝承か
后の病を治した金峯山の聖人は、しばらく宮中に引き留められた。ある蒸し暑い昼下がり、風で几帳がめくれ、薄着で髪を整える后の姿を目にした聖人は、たちまち恋にとりつかれてしまう。女官が離れたすきに寝所へ飛び込み、后の腰にすがりついたが、侍医の当麻鴨継に引き離されて獄に入れられた。のちに金峯山へ帰されても心は戻らず、鬼になって思いを遂げると言って食を断ち、十日あまりで餓え死にした。数日後の夕暮れ、身の丈八尺ほどの真っ黒な鬼が后の几帳の隅に現れ、后はその鬼を迎え入れて共に臥したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪(早川純夫・早川純夫・妖怪史・1973年(昭和48年))
『日本の妖怪』は、早川純夫が一九七三年(昭和四十八年)に著した妖怪史の読み物である。『出雲風土記』『日本書紀』から『日本霊異記』『今昔物語』、江戸の『新著聞集』などの随筆までの古典に記された妖異を、かかわりのある実在の人物や事件とともに古代から近世へ時代順にたどる。全八章で、引用は意訳を交えて『』でくくり、仏教談や霊験談、地方の民話はおおむね除き、第七章には江戸の見聞録から選んだ二十話を並べる。