犬神筋にされた梶寄の源十の家
どんな伝承か
豊後の犬神は今もなかなか去らず、ときに悲惨な事件を起こす。南海部郡東中浦村梶寄のある漁師の娘が突然正気を失い、深夜寝巻き姿で家を飛び出して、数町離れた源十の家の軒下に倒れた。追ってきた家人は先例に照らして源十の家の犬神が憑いたと決めつけ、早く出て行かないと犬にかみ殺させるぞと叫んで娘の背をたたいた。娘は正気づいたが、五日目の朝、餅つきの日にはい出して餅をくれと言い、まだやれぬと答えると蛇のようにのたうって再び源十の軒下へ行った。以来源十の家は犬神筋とされて世間から圧迫され、名望家に嫁いでいた源十の妹も離縁されたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。