壱岐の宿を過ぎる河童のかよい路
どんな伝承か
壱岐に泊まった旅人が、夜どおし宿の前をがやがやと海のほうへ過ぎてゆく足音を聞いた。朝になって宿の者に尋ねると、山童が山から下りてきたのだと言われたという。河童は秋になると山へ入って山わらとなり、春には山を出て海へ下ると信じられ、山すその川や池の堤に童子ほどの小さな足跡がいくつも残ると、里人は河童が山へ入ったなと言い合った。通り道は決まっていて、そこをふさげば必ず仕返しをされる。声を聞くのは決まって夜で、日向では「ほしい、ほーい」、近づけば「くわっくわっ」と聞こえるといい、薩摩では「ひょう、ひょう」と鳴くと伝える。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。