屋島合戦を語る禿狸の憑きもの
どんな伝承か
四国の狸を語るとき忘れることのできないのが屋島の禿である。禿狸も長寿で、源平の屋島合戦の折に高い木の上に登って見物したといい、人に憑くと合戦の模様を事細かに語るのを常とした。とりわけ義経の八艘飛びや弓流しのくだりが得意であった。禿狸は死後、阿波へ移り住んだらしく、嘉永安政の頃、阿波郡林村の二十四、五歳の女髪結に憑いたことで認められている。この女は普段は常人と変わらないのに、禿が乗り移ると二重の性格になり、顔かたちから言葉づかいまで変わって、吉凶判断から予言までした。憑くときは「ただいま帰ってまいった」と言い、離れるときは行き先を告げて挨拶したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。