上伊那寺小路の男がクダを川へ捨てる
どんな伝承か
長野県上伊那郡に伝わる話である。寺小路のオキミサの家にいた男の友人が伏見稲荷に参り、疲れて手を後ろに組んで歩いていると、ある店に呼び止められ、クダを三円で買えと言われた。断ると、手を組んで歩いた者は買わねばならぬ、いやになれば三円付けて持ってくれば納めてやると言うので、しかたなく二寸ほどの密封された筒を買った。帰る道々、耳元の声に従って行き会う女や馬、金のありそうな人を病ませては介抱して礼を受けたが、いやでたまらず、笠に載せて橋の真ん中から川へ投げ込んだ。流れる笠からは助けを呼ぶ声がいつまでも聞こえ、男は旅から戻ってまもなく死んだという。
原典より
いやでたまらぬので、笠の上に載せて橋の真中に来たときに川の中へ投げこんだ。—— 日本の憑きもの――俗信は今も生きている(石塚尊俊・1959年(昭和34年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の憑きもの――俗信は今も生きている(石塚尊俊・1959年(昭和34年))
『日本の憑きもの――俗信は今も生きている』は、石塚尊俊が昭和三十四年に著した研究書である。狐・犬神・蛇などの動物霊が人に憑くという俗信と、それを操るとされる家筋について、全国の伝承と近世以来の文書を集めて論じる。出雲・隠岐・豊後・土佐では筋の家の割合や縁組の偏りを調べ、憑きもの落としの行法や家の神とのつながりまでを七章で追っている。