洪水と叫んだ真裸の男(第一話)
どんな伝承か
福岡県糟屋郡篠栗町に伝わる狐に化かされた話。春の百花爛漫の昼下がり、日暈をかぶった生暖かい光の中、菜の花畑の真ん中を、褌一つの真裸で歩く男がいた。脱いだ着物を丸めて帯で頭にくくり、両手で水を掻くようにかきわけ進んでいる。見つけた吾市が「菜種が倒れてしまうぞ」と怒鳴っても、男は「洪水じゃあ、流されるう」と叫び続ける。駆け寄った吾市が「この真昼間に狐にだまされとるとぞ」と叱り、頬を思い切り強く殴りつけると、男ははっと我にかえったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
篠栗町誌 民俗編――伝説・怪異(篠栗町(編)・篠栗町誌)
『篠栗町誌 民俗編――伝説・怪異』は、筑前の篠栗町が編んだ町誌の民俗編で、その伝説の章にあたる部分である。鉾立山や若杉山の岩にまつわる神話と弘法大師の伝承、薬師・地蔵・観音の由来、平家岩や古井戸の伝説、狐に騙された話や狐憑き、狸の法座、大蛇や河童の話を、町内の古老の語りから集める。二十余の伝説を番号つきの項で並べて『筑前国続風土記』などの地誌や説明板の文を引き、狐狸の話と巷の話の項を続ける。