陸蒸気の先走りに志願した正吉さん
どんな伝承か
明治三十七年六月、炭鉱の多かった篠栗にも汽車が通るようになった。工事が始まると村じゅう陸蒸気の話で持ちきりで、大きな音がするので馬が暴れる、烏や雀がいなくなって助かる、いや人間の子種がなくなるらしいなど、さまざまな噂が飛び交ったという。どこにでも物知り顔で世間知らずをからかう者はいるもので、ある男が正吉さんに、今度陸蒸気が通るようになったら先走りが一人要るそうだ、お宅の息子は足が速いからどうか、給金はお上のことだから相当もらえるぞと持ちかけた。しばらく考えた正吉さんは、息子は少し目が悪いので私を雇ってもらえないだろうかと真顔で答えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
篠栗町誌 民俗編――伝説・怪異(篠栗町(編)・篠栗町誌)
『篠栗町誌 民俗編――伝説・怪異』は、筑前の篠栗町が編んだ町誌の民俗編で、その伝説の章にあたる部分である。鉾立山や若杉山の岩にまつわる神話と弘法大師の伝承、薬師・地蔵・観音の由来、平家岩や古井戸の伝説、狐に騙された話や狐憑き、狸の法座、大蛇や河童の話を、町内の古老の語りから集める。二十余の伝説を番号つきの項で並べて『筑前国続風土記』などの地誌や説明板の文を引き、狐狸の話と巷の話の項を続ける。