赤い芥子の野で父に帰された菊池松之丞
どんな伝承か
遠野の飯豊に住む菊池松之丞が、傷寒を患ってたびたび息が絶えかけたときの体験。田んぼへ出て菩提寺のキセイ院へ急ごうと、足に少し力をこめると、体がふわりと宙に浮き、人の頭ほどの高さを飛んで進んだ。たとえようもなくよい心持ちであった。寺の門の近くには大勢が集まっていて不思議に思ったが、門をくぐると、赤い芥子の花が見渡すかぎり咲き満ちていた。その花の間に亡くなった父が立っていて、お前も来たのかと言う。近寄ろうとすると、今来てはならぬと止められた。そのとき門のあたりで自分の名をうるさく呼ぶ者がいて、しかたなく引き返したところで正気づいた。親族が集まり、水を注いで呼び戻していたのだという。
原典より
赤いケシの花が果てもわからぬほど見渡すかぎりいっぱい咲いていた。—— 日本人物語5――秘められた世界(関敬吾(編)・日本人物語) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本人物語5――秘められた世界(関敬吾(編)・日本人物語)
『日本人物語5――秘められた世界』は、日本人の暮らしの奥にある秘められた信仰や伝承を扱った叢書『日本人物語』の一冊である。境の神や通過儀礼を論じる序論に続き、入らず山や隠れ里、竜宮、平家谷、埋蔵金、生まれ代わり、あの世を見た話、魔法使い、生霊、秘密結社、狐憑きなどを、伝承と昭和三十年代までの新聞記事・見聞を織りまぜて述べる。序論「生活文化の秘密性――はじめに」の後、「奇蹟」「不気味な神々」などの区分の下に短い節を並べる。