呼び声に答えて里を呑んだやろか水
どんな伝承か
葉栗郡草井村の木曽川沿いに小渕という部落があった。ある年の夏、降り続く雨に木曽川は刻々と増水し、堤防の至る所が危険にさらされ始めた。小渕の部落民は女子供を避難させた後、総出で必死に水防作業に当たっていた。そうしたある晩、激しい雨あしと白く泡立つ激流の中から、やろかー、やろかーという気味の悪い呼び声が聞こえてきた。狐狸の仕業か風のいたずらかと思う間もなく、再びはっきりと呼び声がする。業を煮やした一人の農夫がよこさば、よこせと呼び返した瞬間、津波のようにふくれあがった大水が堤防を躍り越えて小渕の里へ流れ込み、田畑も人家も一瞬で水底へ姿を消したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
愛知県伝説集(福田祥男・1961年(昭和36年))
『愛知県伝説集』は、福田祥男が昭和三十六年に著した愛知県の伝説集である。尾張・三河の山や海、淵や池、地蔵と観音、石や塚、城跡、地名、動物と変化、植物、祟りと怨霊などにまつわる言い伝えを、原型に忠実に再現することをめざして平易な文で語り直し、話の末に郡市名を添える。山の伝説から其の他の伝説まで十五の部に分け、あとがきでは前年に出した『愛知県伝説集・虹と黒潮』を全面的に改稿し増補したと記す。