老母に成り代わった大蔵の猫
どんな伝承か
もと碧海郡六つ美村の大字正名に、むかし大蔵という者があった。生まれつきの猫好きで、このときも一匹の猫を我が子のように可愛がっていた。猫は次第に年を経て人真似をするようになり、怪しいふるまいさえ見られたが、大蔵は気に留めなかった。ある日、畑仕事から帰ると猫の姿が見えない。大煙管で煙草を吸っている老母に聞いても埒があかず、八方手を尽くしたが行方は知れなかった。幾日か過ぎた夜、不気味な気配に目を覚ました大蔵が隣室をのぞくと、老母の姿をした大猫が耳まで裂けた口を開け、行燈の魚油をなめていた。猫はいつの間にか老母を食い殺して成りすましていたのである。大蔵が大声をあげると、猫はどこへともなく姿を消した。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
愛知県伝説集(福田祥男・1961年(昭和36年))
『愛知県伝説集』は、福田祥男が昭和三十六年に著した愛知県の伝説集である。尾張・三河の山や海、淵や池、地蔵と観音、石や塚、城跡、地名、動物と変化、植物、祟りと怨霊などにまつわる言い伝えを、原型に忠実に再現することをめざして平易な文で語り直し、話の末に郡市名を添える。山の伝説から其の他の伝説まで十五の部に分け、あとがきでは前年に出した『愛知県伝説集・虹と黒潮』を全面的に改稿し増補したと記す。