河原でうめいた焼けた仁王像
どんな伝承か
秩父市大田の上郷、煙草畑越しの山すそにある小さな祠に、流木のように木目の浮いた大木が納められている。札所十四番今宮坊の門前にあった仁王像と伝えられるものだ。この辺りはかつて赤平川沿いの景色のよい土地で、今の札所三十四番水潜寺が中央に建ち、秩父には珍しく田に恵まれて栄えていた。ところが北条方の侵入で水潜寺は焼かれ、家々も灰になった。泣き伏す村人の耳に赤平川の河原から悲しげなうめき声が届き、行ってみると真っ黒に焼けただれた仁王像があった。北条方の武士が今宮坊から担ぎ出して焼き捨てたものらしく、村人は流れ着いたのも縁と祠を建てて納め、今も敬っているという。
原典より
秩父市大田上郷の煙草畑ごしの山すその小さな祠の中に、かつて札所十四番今宮坊の門前にあった仁王尊像であると伝えられる、流木の様に木目だらけになった大木がおさめられている。—— 秩父の伝説と方言 より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
秩父の伝説と方言
『秩父の伝説と方言』は、秩父市教育長鶴沢福松の序を付し、編集委員が執筆整理にあたって編んだ秩父地方の伝説と方言の集成である。秩父市と秩父郡に伝わる伝説を集め、武甲山麓のジジイ・ババア石、橋立鍾乳洞の悪龍、畠山重忠や坂上田村麻呂にまつわる話、伐ると祟る天狗松などを語り口調で記す。伝説は石・水・塚・屋敷跡・山と人物・地名・社寺および城跡・木に関する八つの部に分け、話によっては他地方の類話を注記する。