山路に現れたお江戸の幻
どんな伝承か
今から百年ばかり前、入生田に山稼ぎをする近野某という者がいた。春は柴刈り、夏は山菜採り、秋は茸狩りと一年の大半を山で過ごし、いつも夜明け前に家を出た。ある日も暗いうちに出ると、向こうから隣の親父がやってくる。今日は一緒に働こうと声を掛けると、親父は喜び、日頃の礼に面白いものを見せようから少し目をつむれという。言われたとおりにして目を開けると、前方に賑やかな町が現れた。さらに目を開けばお江戸だといい、大路には高楼が軒を並べ、天女のような美しい女が歩いている。見とれているうちに一陣の風が吹いて掻き消え、街も隣の親父もなく、いつもの山路に戻っていた。気づけば昼の弁当が何者かに取られていたという。
原典より
今から百年ばかり前の話ですが、入生田に近野菜という山稼ぎをしているものがおりました。—— 高畠町伝説集(昭和三十二年(1957)刊/高島高校文芸班編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
高畠町伝説集(昭和三十二年(1957)刊/高島高校文芸班編)
山形県東置賜郡高畠町(屋代・亀岡・和田・二井宿・糠野目・高安・露藤ほか各地区。一部は隣接の米沢市・南陽市宮内・長井市)に伝わる伝説を、神仏/人物/怪異/動物/什物/地物/地名/地誌 の八篇に分類して集成する。屋代神社の鬼女縁起、犬の宮・猫の宮、安久津八幡、狐狸むじなの化かし、天狗・怪物・沼の怪、青葉の笛や応挙の幽霊画、伊達・上杉の城館跡や古戦場、地名由来など、高畠の地に根ざした怪異・霊験・由来譚を地区つきで網羅する。