串川の名
どんな伝承か
串川の川上に、領主が目に入れても痛くないほど大切に育てた美しい娘がいた。ある日散歩に出た娘は、橋の上で川下の集落の長の息子と出会った。笛の名手の若者が娘のために一曲吹くと、二人の間に恋が芽生えた。身分の違いから自由には会えなかったが、ある夜若者は自分の顔を彫った金縁の櫛を娘に贈った。会えない日々に耐えかね、初めて会った橋の上で泣き伏した娘の身から櫛が落ち、流れに沈んだ。娘は川に下りて狂ったように探し続けたが見つからず、人々はこの流れを櫛川と呼んだ。別の伝えでは、領主に仲を裂かれた若者が形見の櫛を残して去り、娘はそれを抱いて川に身を投げたという。
原典より
金のクシ 川上に一人の美しいおとめがいた。—— 神奈川の伝説(谷川平夫(文)/読売新聞社横浜支局 編・1967年(昭和42年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
神奈川の伝説(谷川平夫(文)/読売新聞社横浜支局 編・1967年(昭和42年))
『神奈川の伝説』は、読売新聞社横浜支局が一九六七年に編んだ神奈川県内の伝説集である。読売新聞神奈川県民版に昭和四十年九月から四十二年八月まで八十回連載された「神奈川の伝説」のうち六十五回分を収め、文は谷川平夫記者が書き、伝説の地を訪ねて住職や古老に聞いた話と現在の様子を添える。樹木・石・塚・水・坂や島・屋敷址・社寺・禁忌・地名の部に話を分け、大藤時彦の序文と巻末の解説・索引を付ける。