狐にだまされた話
どんな伝承か
逗子の披露山の頂にある稲荷には、お夏という雌狐が住んでいた。頼朝が献上品を披露する宴を張ったと伝わる山である。隣の久木の稲荷の雄狐孫三郎と夫婦になる嫁入りの夜、招かれた狐たちは松明をともし笛や太鼓を鳴らして祝い、青白い火の行列が暗い山腹をゆらゆらと進んだが、近づいても火が動くばかりで狐の姿は見えなかったという。夫婦狐の好物は油揚げではなく新しい魚で、小坪から金沢へ披露山の坂を越えて売りに行く魚売りを狙った。相撲好きの孫三郎は男に化けて勝負を挑み、組み合う隙にお夏が魚をかすめ取った。若い魚売りにはお夏が美女に化け、見とれている間に鮪や鰹を消してしまったという。
原典より
芦の湖の九頭竜明神(足柄下郡箱根町) 二二七禁忌の伝説 二三一トウモロコシを作らぬ谷戸(川崎市野川) 二三一地名の伝説 二三九—— 神奈川の伝説(谷川平夫(文)/読売新聞社横浜支局 編・1967年(昭和42年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
神奈川の伝説(谷川平夫(文)/読売新聞社横浜支局 編・1967年(昭和42年))
『神奈川の伝説』は、読売新聞社横浜支局が一九六七年に編んだ神奈川県内の伝説集である。読売新聞神奈川県民版に昭和四十年九月から四十二年八月まで八十回連載された「神奈川の伝説」のうち六十五回分を収め、文は谷川平夫記者が書き、伝説の地を訪ねて住職や古老に聞いた話と現在の様子を添える。樹木・石・塚・水・坂や島・屋敷址・社寺・禁忌・地名の部に話を分け、大藤時彦の序文と巻末の解説・索引を付ける。