旅僧の祈りで年に二度実る栗
どんな伝承か
昔、墨染の衣に杖を突いた旅の僧が、草深い与野の里にやって来た。石に腰を下ろして休んでいると、子どもが栗の木に登って実を取っている。僧が一つ分けてほしいと頼むと、子どもはたくさん取ってきて、袋があるなら持ってくるようにと言い、惜しみなく渡した。僧は喜び、その心がけへの礼として、この栗が一年に二度実るよう祈ってやろうと言って経文を唱え、自分は諸国を巡る弘法だと名乗って去った。それ以来、栗は年に二度実を結ぶようになったという。この名木は明治の初めに枯れたが、枯木はそのまま残され、注連縄が張られていたと伝わる。
原典より
昔、身には墨染の衣をまとい、杖をたよりに草深い与野の里を訪れた旅僧があった。—— 埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成――分類と解説 上』は、韮塚一三郎が埼玉県内の伝説を類型ごとに集めて編んだ伝説集の上巻である。片目の魚、化かす狐や狸、松・杉などの樹木、石や岩、ダイダラ坊と山、清水・渕・池・井戸にまつわる県内各地の伝説を、郷土誌や地誌、『埼玉史談』などの文献と、地元の資料提供者や話者の報告から採って収める。各話に所在地と出典を添え、話型ごとに〈解説〉を置いて全国の類例と信仰の背景を論じ、[参考]文献を挙げる。