大森の益木が瀬に生えた海苔
どんな伝承か
浅草寺の観音のお告げで宮戸川の沖に生えたと伝わる浅草海苔は、元禄十六年十一月に関東を襲った大地震で海の底が変わり、根が絶えて生えなくなってしまった。ところが翌年の宝永元年二月、大雨で川があふれたとき、浅草川から梅の若木が一本流れ出し、品川の南、大森の沖の益木が瀬という洲に引っかかって、苗木を植えたかのように根を下ろした。その年の冬至のころに見に行くと、不思議なことにその枝に黒い海苔が付き、寒さが増すにつれて育っていた。里の人が取って食べてみると、観音が告げた名草と少しも違わず、味はむしろ勝っていた。翌年、埋もれた木のあたりに粗朶を切って立てると、日ごとに海苔が生えるようになり、人々はこれを採って売り、暮らしを立てるようになったという。
原典より
同年冬至の頃おひに至り見れば、ふしぎ成哉、黒色の海苔かの枝に生じ、寒氣にしたがひ成長することすにみつ—— 江戸傳説(佐藤隆三) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
江戸傳説(佐藤隆三)
『江戸傳説』は、佐藤隆三が著した江戸と東京の伝説集である。将門の首塚、番町皿屋敷、お玉ヶ池、置てけ堀、縁切榎、矢口渡など、市中と近郊の塚・池・坂・井戸・寺社にまつわる由来譚や、化け狐・猫又の怪異を、『江戸名所図会』『将門記』などの記録を引きつつ語る。目次に四十の項を番号順に並べ、口絵の図絵と目次番号に対応した伝説分布図を添え、巻末に資料参考書目を付す。