岩木山の神となった安寿と丹後の船
どんな伝承か
十三の渡し場からは、雪の岩木山が真正面に見える。寂しい十三湊の民家は、ことごとく白く大きなこの御山の根に抱えられ、名に高い屏風山保安林の常磐木の緑が、わずかに遠い雪と近い砂山との境を画している。著者は、母から昔聞いた山椒大夫の物語、安寿恋しや厨子王丸の歌言葉が、図らずも幼い頃の悲しみを呼び返すのを覚えた。姉の安寿はのちにこの山の神となったので、丹後一国の船は永く津軽の浦に入ることを許されなかったという。越後佐渡から京・西国にかけて広い舞台をもつこの人買い船の物語は、要するに十三の湊の風待ちの徒然に、遊女などの歌の曲から聞き覚えたものに相違ないという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。