舞木峠で背後から呼ぶ狐の声
どんな伝承か
舞木峠は近年まで空も見えないほど杉の茂った山道だったが、今ほど淋しくはなかった。秋の末に村々が道を直すので通行が多く、旧正月などは秋葉参りの人の話し声が絶えず、頂上では熊から通う夫婦が茶店を出していた。ところが袋井から森町へ軽便鉄道が通じると、この道はほとんど使われなくなった。そうなると昼間でも一人では気味が悪い。一人で通ると後ろから呼ぶことがあり、振り向いて誰もいないと急に怖くなるが、尻声が切れてほいほいと短いのは狐なので、立ち止まったり返事をしたりしないほうがよいという。
原典より
振向いて誰も居らぬと急に怖くなるが、尻聲が切れてほいほいと短いのは狐だから、立止ったり返事をしたりせぬがよい。—— 定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。