大師あらわれたりと言ったロウソウ
どんな伝承か
佐渡を旅していたとき、赤玉の村から五人の男が私の荷物を運びながら、道々面白い話をしてくれた。それによれば、佐渡では仏堂を守る道心者のことを「ロウソウ」と呼ぶのだという。老僧ではなく、濫僧という古い言葉であるらしい。むかしある家の門先にロウソウが立って物を乞うたとき、こうした人の中には時に偉い人が姿を変えて訪れることがあるから粗末にしてはならぬと言うと、その言葉を聞いたロウソウはたちまちいい気になって「大師あらはれたり」と言った。傍にいた一人が「何を言うか、お前はどこそこ村のロウソウではないか」と叱りつけると、悪びれもせず「また大師あらはれたり」と言ったという。
原典より
傍の一人が何をこいつが言ふぞ、貴様は何村とかのロウソウぢゃ無いかと叱りつけると、ぬからぬ顔をして「又大師あらはれたり」と謂つたといふ話。—— 定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。