佐渡海府の断崖に咲く石楠花
どんな伝承か
島であるためか、あるいは島の片蔭であるためか、佐渡の海府にはまだ幾つもの古い風景が残っている。海に迫った山の端の断崖には、六月の潮の緑を背景として、薄桃色の石楠花が咲いている。坂を越える村人らはその艶麗な輝きに堪えず、思わず一枝を折り、手に持ってやがてまた棄てて行く。船からこの花を見て行くような山は、もう日本には他に無かろうかと思われた。海府の果てまで往くと、地上の草にも人間の跡がまだ少ないのである。
原典より
海に迫つた山の端の斷崖には、六月潮の綠を背景として、薄桃色の石楠花が咲いて居る。—— 定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。