大津の浜で塩鮭を隠した小冠者
どんな伝承か
東北の女たちの身なりを論じた文の中で、著者は一つの昔の逸話を引いている。あるとき大津の浜で、塩鮭を一尾、肌着の内に隠し持っていたのが見つかった若い小冠者が、開き直ってこう言い放ったという。どれほど身分の高い女御や更衣であろうと、こうして素っ裸にしてみれば干鮭の一匹ぐらいは出てくるだろう、と。著者はこれを引いて、人のうわべが本当の姿かを確かめる機会は乏しいのだから、せめて思いやりの目で奥州の奥の女たちを見て歩かねばならないと説いている。
原典より
又或時大津の濱に於て、一尾の鹽鮭を肌に取匿して露顕した小冠者が、居直りして斯う謂つたさうである。—— 定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。