天狗となった笛吹き名人の多聞天
どんな伝承か
掛川の宿の南にある小笠山の別当成徳院で通夜をすると、どこからともなく妙なる笛の音が聞こえ、土地の人は天狗になった小笠尾太夫が今も吹くのだと語る。浅羽芝村の尾太夫は並ぶ者のない笛の名手で、秋葉踊りのとき小笠山の神前で吹いていると、山頂の天狗三広坊が姿を現し、眷族になれと誘った。尾太夫は山に入って行を修め、寛永の頃に天狗となって多聞天狗と呼ばれた。享保の頃には浅羽芝村の浄瑠璃寺に大鳥となって現れ、宮社の造営を頼み、とんち小僧の割れ硯に大笑いして「衆生来望」の四字を書き残し飛び去ったという。
原典より
それから間もなく尾太夫は、近親に暇を告げ単身小笠山に分け入って、一十七日の行をおさめついに天狗になったとのことである。—— 日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年))
『日本の妖怪伝説』は、小笠好恵が各地に伝わる奇談・怪談を読み物にまとめた伝説集で、序は昭和四十一年五月付である。浅茅が原の一つ家、四谷怪談、九尾の狐、安達が原の黒塚、道成寺、鍋島の化け猫など、岩手から熊本までの四十五話を、伝えられた形をなるべく崩さずに書き直し、おおむね東から西へ並べる。雨月物語や小泉八雲など書物に拠る話のほか近年の体験談も混じり、一部の話の末にはゆかりの寺社へ行く「順路」を付ける。