稚児をさらった伊予が岳の天狗
どんな伝承か
伊予が岳は房州の妙義山とも呼ばれる、この地方では珍しい岩山で、雨乞いの山としても知られる。昔からこの山には天狗が棲むといわれてきた。延喜二十一年、安房の国司小松民部正寿が千倉町大貫に小松寺を建てた落成の祝いに、民部の子の千代若丸が稚児舞を舞っていると、天狗が飛来して稚児をさらって行った。後に遠く離れたこの伊予が岳で死体が見つかったという。千代若丸の従者だった乙王は主人の無惨な死を悲しみ、小松寺近くの滝に身を投げた。この滝を今も乙王が滝と呼ぶ。それからは天狗の災いはなくなったが、天狗が飛び交う音だけは今でも聞こえるという。
原典より
安房郡富山町にある伊予が岳は房州の妙義山ともいわれ、この地方では珍しい岩山であり、また雨乞いの山としても知られている。—— 房総の伝説(平野馨) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
房総の伝説(平野馨)
『房総の伝説』は、平野馨が安房・上総・下総の旧三国、ほぼ今の千葉県に伝わる伝説を選んで編んだ資料集である。ホトトギスやワラビの由来、片葉の芦や頼朝の箸の杉、弘法の井戸、将門や八幡太郎の話、坂戸神社の人身御供、証誠寺の狸など、動植物・石・池・地名・家・祭りにまつわる伝説を市町村名を添えて記す。はしがきに示す自然伝説・歴史伝説・信仰伝説の三部に分け、解説や論評を加えずに書き連ね、似た話のある土地も併せて挙げる。