赤人の歌に付会された安房の田子の浦
どんな伝承か
安房郡勝山町大字下佐久間に田子台という地があり、これにちなんで勝山近傍の沿海一帯を田子の浦と総称している。海を隔てて富士を望む勝地とされ、土地の人は、「万葉集」の山部赤人が富士を望んで詠んだ歌は、この安房の田子の浦に立って詠んだものだと言い伝えている。「房総雑記」の著者嶺田楓江らも、富士の眺望は安房からこそ得られると説き、この地を国自慢の一つのように心得ていた。しかし赤人の歌は駿河なる不尽の高嶺と詠まれており、万葉の田子の浦は駿河のそれで、安房の田子の浦は後人がその名に付会して名づけたものかもしれないという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 安房の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1919年(大正8年))
『日本伝説叢書 安房の巻』は、藤沢衛彦が大正八年に編んだ安房国(千葉県)の伝説集である。天富命の渡来や源頼朝・里見氏・日蓮にまつわる英雄伝説を中心に、社寺の縁起、風俗・信仰、船幽霊や一本足の蛸などの特異な伝承を、『安房志』『房総志料』などの地誌や寺伝・口碑から引いて収める。緒言と「安房国と牛」と題する序を巻頭に置き、鋸山から小湊まで各話に所在の郡村大字を添えて土地ごとに並べ、緒言では百八十六種を蒐集したと記す。