天狗が稚児をさらった小松寺の七不思議
どんな伝承か
健田村大貫字小松の山腹にある小松寺は、役小角の開基と伝える真言宗の寺で、延喜二十年に国司の小松民部正寿が七堂伽藍を建てて檀特寺と号したという。境内には七不思議があり、根無の樫、夜鳴の鐘、暗夜の読経、三度栗、天狗飛遊、色の変わる七色が淵、そして乙王が滝である。伽藍落成の翌年二月十五日、祝いの舞楽が舞われた庭に天狗が降り、稚児の千代若丸をひっ掴んで空へ飛び去り、平久里の山にその屍骨を捨てた。千代若丸は国司正寿の子息で、乙王丸は救う術のなかったことを悲嘆し、山の神霊に殉じて滝に身を投げたと伝える。その死を悼んで滝を乙王の滝と呼び、以後は天狗の魔障が絶え、ただ天狗が空を飛ぶ音を聞くだけになったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 安房の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1919年(大正8年))
『日本伝説叢書 安房の巻』は、藤沢衛彦が大正八年に編んだ安房国(千葉県)の伝説集である。天富命の渡来や源頼朝・里見氏・日蓮にまつわる英雄伝説を中心に、社寺の縁起、風俗・信仰、船幽霊や一本足の蛸などの特異な伝承を、『安房志』『房総志料』などの地誌や寺伝・口碑から引いて収める。緒言と「安房国と牛」と題する序を巻頭に置き、鋸山から小湊まで各話に所在の郡村大字を添えて土地ごとに並べ、緒言では百八十六種を蒐集したと記す。