塚から掘り出された宥坐の器
どんな伝承か
昔、安房郡天津町大字清澄の山中に、奇異な器があった。塚の形をなして高さは三丈ほどであったが、土地の里人が野などへ出て遊ぶ折にここを掘ってみると、石像が一つ出てきた。その側には石が置かれ、傍らに器が一つあったが、水は入っていなかった。さらに銅製の器が一つあり、色つやはなく極めて古く厚く、丸くて据わらず、物に寄せかけると座る。中に物を容れてみると一升三合が入り、満たせば正しく立ち、満たさなければ覆り、量ろうとすれば傾いた。何の遺器であるかは知られなかったが、「房総志料」は、恐らく経書にある孔子の宥坐の器を写したものではないかと言っている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 安房の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1919年(大正8年))
『日本伝説叢書 安房の巻』は、藤沢衛彦が大正八年に編んだ安房国(千葉県)の伝説集である。天富命の渡来や源頼朝・里見氏・日蓮にまつわる英雄伝説を中心に、社寺の縁起、風俗・信仰、船幽霊や一本足の蛸などの特異な伝承を、『安房志』『房総志料』などの地誌や寺伝・口碑から引いて収める。緒言と「安房国と牛」と題する序を巻頭に置き、鋸山から小湊まで各話に所在の郡村大字を添えて土地ごとに並べ、緒言では百八十六種を蒐集したと記す。